おばあちゃんのケーキ
最近食べたシフォンケーキ。焼いたやつと焼いてないやつがあったんだけど、焼いてないほうがシンプルにうまい。
ぼくは焼き菓子が大好きで、中でもパウンドケーキが一番好き。パウンドケーキは夢がある。いろんな味の変え方ができるし、割と何をしても美味しい。紅茶のパウンドケーキに潰したカルダモンやシナモンなどを加えて「チャイのパウンドケーキ」を作ったことがある。我ながらなかなかの出来だった。
レシピ本もパウンドケーキのレシピ本がお菓子のレシピ本の中でもかなり楽しい。酒粕と桜の塩漬けのパウンドケーキとか、金柑とレモングラスのパウンドケーキとか、想像するだけで幸せな気持ちになる。ドキドキワクワクするような感じ。パウンドケーキはドキドキワクワクが他のお菓子よりも強い気がする。
今、実習でおじいちゃんおばあちゃんと接することが多く、そういうときにはやっぱり決まっておばあちゃんのことを思い出す。
母方のおばあちゃんは会うたびに元気元気でもはやうるさい。「すぽちゃんはほんまに優しいなあ!」と会うたびに泣いてくれる。孫馬鹿がすぎると思う。面白いエピソードはやまほどある。母はそんな祖母を「野性」と表現する。
それに引き換え父方の祖母は静かである。最近は会うたびに元気がなくなっているのでそれが少し寂しい。昔は一緒に高島屋に行って、グリル東洋亭のハンバーグとか食べていたのになあ。トマトのサラダが美味しいのだ。
そんな父方の祖母はぼくがまだ子どもの頃、よくケーキを作ってくれた。
ココアのマーブルケーキと、ベイクドチーズケーキ。
ココアのマーブルケーキは少し変わった形をしていて、真ん中に穴が空いたドーナツみたいな型で焼く。クリスマスに飾るリースみたいな大きさのドーナツ型。変な波波の型がつく。
たまにチョコレートの塊が入っていたりする。そしていつも上からおばあちゃんの漬けていた梅酒を塗る。なぜかこの梅酒がよく合った。ケーキの甘みとココアの苦味と梅酒の酸味が、どうしてか調和していた。
ベイクドチーズケーキは正方形の型で焼き上げられる。それはもう濃厚も濃厚って感じでけっこう重い。でも、ヨーグルトやレモン汁の酸味が効いてるし、なによりシナモンパウダーの香りが良い。ぼくはおばあちゃんのおかげでシナモンパウダーのことを知ることができた。
今はもう食べることがない。おばあちゃんも多分作る元気がないだろう。
ぼくの一人暮らしの家にはなぜかオーブンがあるから、きっと作ろうと思えば作れると思う。
でも、なんだかそのレシピを知りたくないなあ、と思うのだ。
おばあちゃんが作ったから多分うまかった。そういうケーキなんだろうなと思う。
同じレシピでぼくが作っても、それはただの美味しくも不味くないケーキなのだ。あのケーキなんかじゃなくて。たぶん。