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鴨川、カモリバー

京都を代表する川、鴨川。

数多くの本や映画の舞台となっており、その存在は今や京都について多少かじったことがある人なら絶対に知っていると思う。

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ちなみに鴨川より西は平安京の中。貴族がこぞって住まう地域であったとか。

鴨川より東は平安京の外。古いときは冥土だとか言われてたらしい。つまり東には農民か妖怪しかいない。

 

ぼくは、この鴨川には結構思い入れがある。

京都に帰省するたびに毎朝鴨川をランニングしてるし(くいな橋から出町柳まで往復する。多分17〜18kmある気がする)、高校時代は嫌なことがあるたびに鴨川を自転車で北上していた。

高校の時に、模試を受けるのが嫌で、解答用紙をビリビリに引き裂いて教室から逃げて鴨川をひたすら北上したことがある。鴨川デルタを左に進んで、鴨川が賀茂川に変わってからも北上し続けた。流れに逆らって。源泉には何かがあると思ってたに違いない。途中、霰が降り始めた。多分すごく寒い日だった。雲の合間から煌々と水面を照らす陽の光と、ぼくの周りにだけ降っていると思わせる様な霰が反射しあって、そのときはもうただ美しい光景に、なんで自転車を漕いでるのかわからなくなった記憶がある。

 

そんな鴨川でラブストーリーを繰り広げるというのは京都に住む少年少女の夢である。

鴨川の川岸に等間隔でカップルが座るという「鴨川等間隔カップルの法則」は、いつか俺も点Pになってやるぞと思わせる力が十分にある。

 

ぼくもあった。点Pになった瞬間が。

 

中学の頃に仲良くなって、いわゆるイキ告をしてフラれた女の子に、高校卒業前に一度会おうと言われたことが始まりだった。

彼女は京都で浪人をするけど、ぼくは進学のために東京に行くという設定だった。

どこで会おうって話になったときに、ぼくは「鴨川がいい。出町柳ミスタードーナツでドーナツ買って鴨川で食べよう」という、本来ならばデートに疲れてきたカップルが夕方ごろ手持ち無沙汰になって「これからどうする?」という彼女の問いに対して答える「思いつきにしてはそこそこよかったな」みたいな回答、をした。彼女はいいよと言ってくれたけど。

いよいよその日がやってきた。慣れた相手なので緊張は特にしなかった。フラれたことがある、というのはその日大きな財産となっていたのだ。気が楽すぎる。

ドーナツを買おうという話になって、彼女は「3個ずつ買おう」と提案してきた。「そんないらんやろ」とぼくは言ったけど彼女は折れなかった。何買ったっけ。結局。チョコファッションと、エンゼルクリーム。あとは多分彼女が選んでくれた。

結局「重い」と言って2個ずつしか食べられなかった。2個でも頑張った方だと思う。その日は天気はそんなに良くなかった。寒い寒いと言いながら、「なんで鴨川やねん、寒いやろ」と彼女はぼくを責めた。それ以外は何話していたのか覚えてない。多分将来のこととか話してた。

彼女はいったいなんでぼくを誘ったんだろう、と考えながら帰路に着いた。なんだか中学時代の自分のことを思い出しながら、ぼくはちょっと気持ちの悪いことを言った。

「手繋いでいい?」

ほんとは土下座して「キスしてくれ」と言うつもりだった。前日までは。

「キモい」

確かに。

「あの橋と橋の間だけ」

なんだその、先っちょだけでええから、みたいなのは。

「それやったら、まあ」

ええんかよ。

 

そのあとは高瀬川の方まで歩いて解散することになった。「じゃあ、東京行っても元気で」と言われた瞬間に、もう会えないのか、としみじみした。そのとき、彼女は少し可愛らしい、小さな封筒を取り出した。

「じゃあ、これ。家帰ってから読んで」

「えっ? なにそれ」

彼女は頬を紅潮させながら、渡してぼくを叩いた。

「……」

なんで黙んねん、と言おうとしたときだ。彼女はぼくの手から封筒を奪った。

「やっぱあかん! これ、なし!なし!」

「えっ! それはあかんやろ!」

「なし! バイバイ! はよかえれ!」

「いやいや、気になるからー!」

「じゃあね! バイバイ!」

「えーっ……」

そう言って、彼女は去っていった。

 

出町柳賀茂大橋の下を通るたびに、あの手紙はなんて書いてあったんだろうと気になってしまう。

 

それ以来、ぼくは女の子の「これ、もしかして付き合えたりするやつなのでは?」という言動には懐疑的になっている。

 

鴨川はどこかに繋がっている。神田川とか、琵琶湖とか。たぶん。

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